おいしいものは、食べてみないとわからない まずいものもおなじ
彼女にはひどいことをしてしまった。
名前は確かノーラン。口で聞いただけだから、ノーラとかローランとかかもしれない。
彼女はぼくに納得し、体を預けてくれたというのに、
ぼくは彼女の全てを食べてやることができなかった。
その肉体の大半を警察に取られ、わずかなぼくの取り分でさえも、
あの女刑事に持っていかれてしまった。
今、ぼくの手元に、彼女はひとかけらも残っていない。
遺跡外に戻るついでに、あの女刑事が持っていった右足はまだ残ってるかもしれないと、不本意ながら派出所に顔を出した。
名前は確かノーラン。口で聞いただけだから、ノーラとかローランとかかもしれない。
彼女はぼくに納得し、体を預けてくれたというのに、
ぼくは彼女の全てを食べてやることができなかった。
その肉体の大半を警察に取られ、わずかなぼくの取り分でさえも、
あの女刑事に持っていかれてしまった。
今、ぼくの手元に、彼女はひとかけらも残っていない。
遺跡外に戻るついでに、あの女刑事が持っていった右足はまだ残ってるかもしれないと、不本意ながら派出所に顔を出した。
おまわりが椅子に座っている。
そのシルエットはすごく不気味だ。
うす汚れた灰色の髪と、にょろりと高い身長と首、手足は、はっきりいって怖い。
人ではないもののように感じる。
そして、話し方でわかる、確かな敵意。
例えは使い古したカビ臭いものけど、その様子は檻の中の猛獣を見ている、という例えがぴったりだった。
有利なのはそっちなんだよ。
きみはぼくを殺せるが、
ぼくはきみを殺すことができない。
ぼくは、その猛獣の檻に頭をつっこんでいるんだ。
とはいえ、ぼくはおまわりが人を殺しているところは見たことがない。
口振りからして、あまり上品なやり方じゃないだろう。
おまわりの話によると、あの女刑事…ロッテさんは、もう殺してしまったあとだと言う。
もちろん足は彼女が持っていたから、つまりはもう、食べられる状態じゃないってことだ。
ロッテさんには悪いことをした。
たぶん、何十年後か、ぼくは生まれ変わったロッテさんにまた会う気がする。
そのときは逮捕されてもいいと思う。
取り調べ室で、沢山お喋りをするところを想像する。
(動機はなんだ?)
そういえばそのマスクってなんなんですか?
(恨みか?幼い頃母親に虐待を受けたのか)
髪の毛って地毛?シャンプーは何を使ってるの
(趣味か?生き物を解体するのが好きなのか?)
身長と体重教えてよ。できたら誕生日と血液型も
(映画やゲームの影響か?本棚には猟奇殺人の本があるだろう)
今日はいい天気ですね
(性癖か?女性を食べることで快感を感じるのか?)
きみって処女?
(動機はなんなんだ?)
パンを毎日食べるのに動機がいりますか?
(質問に質問で回答するとテストで0点になるぞ)
派出所からの帰り道、ぼくは、てんでばらばらになってしまった彼女を思う。
フィスさんという、胸が大きな眼鏡の女性がやってきて、
ぼくに「人の魂が憑いている」と言った。
宗教の勧誘かと思ったけど、もし本当に人間の魂がぼくに憑いているのなら、
それは彼女の魂だろう。
ぼくがきちんと、最後まで食べてやらなかったから、
ぼくに纏わりついているんだ。
ノーランを輪の中に帰すために、きっと、似たような背格好の女の子を食べてやれば、一緒に戻ってくれるだろう。
遺跡外はにぎやかだった。
なんでも、有名な魔術師だか奇術師が来ているのだとか。
奇術とわかっているものを見に行く神経は理解できないけど、
若い女の子が島に増えたのは有り難い。
頭の悪い女の子ほど、ぼくは好きだと思う。
とくに、手品なんかを食い入って見るような女の子なんかは。
だってこんなに、簡単に捕まえられるんだもの。
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