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おいしいものは、食べてみないとわからない まずいものもおなじ
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パドマは「香り」を食べるというが、それはウソだ。
パドマは「知識」も食べる。

パドマに言っても、ぱっきりと否定するか、否定もされないかのどっちかだろうから、ぼくは言ったりしない。
ぼくはこう見えて大人なんだ、そのへんは。

ついこの間、遺跡内にうようよしているという、RPG(ぼくはそのタイトルの例えすら思い出せないぐらいゲームに疎い)に出てくるような動物たちが、モサァーと襲ってきたわけで(モッサアーだったような、サァーだったような)、ぼくらはRPGの方式?にのっとって、彼らを倒した。

ここまではよかったんだけど(本当に?)、3人のま緑人間のうち一匹を(本当によかったのか?)パドマが捕まえて(それでいいのか?)、腰に下げていた大きいナ(お前はそれでいいのか?)イフで、それを解体しはじめた(納得したのか?本当に)んだ。

ぼくはおどろいて、足がすくんでしまった。
だって、パドマは、『食べない』じゃないか。

パドマのマントのすそを、ぼくはおそるおそる引っ張った。
パドマが唯一身にまとっている布であって、ぼくにとっては、それは”とりつく島”だ。
よりかかったりすると、パドマが発する香りとは別の、持ち主と一緒に旅をした先で吸い込んだであろう香りが沢山して、眠って夢を見ているのか、旅先の思い出を聞かされているのか、たまにわからなくなる。
(残念ながら、パドマの口から一回だって旅先の話を聞いたことはない。口だってめったに開きやしないんだから)
夜、自分の毛布に包まって寝るときも、自分の毛布もおんなじようにならないかなあって思って、なるべくパドマの傍で寝てるのに、今のところそんな傾向はない。二晩で匂いなんてそうそううつるもんじゃないのは、わかってるけど。わかってるんだけど。

脱線した。
とにかくこないだ、ぼくはま緑人間を解体するパドマに、衝撃を受けた。怖かったとも言っていい。
でも、やっぱりぼくは、それ以上に、「なんで」そんなことをする必要があるのか、パドマに聞きたかった。
だから、ぼくは、パドマの一張羅をひっぱったんだ。

振り向いたパドマ、目はいつもと何もかわらなくて、切れ長で一重の目と、えんぴつで描いたような眉毛が、ぴくりともしないんだ。
体に飼っている青が、いつになくキレイにみえたりした。
そして、たぶん、ぼくもいつもとおなじだった。ひとに文句を言えるほど、表情は豊かじゃない。


ぼくは聞いた、「どうして殺す必要があるか」って。

もらった答えは、「知識とするため」だった。


ぼくはいよいよ、ぼくの背をどろりと通る脊髄が、一瞬だけ、ぶるんと脈打つのを感じた。


ぼくの素直な気持ちは、「食べないなら殺さないで欲しい」だったし、それをお願いしようと思った。
でも、パドマは、「知識」を食べているところだったんだ!
殺したいから殺したんでなく、パドマは、それによって「知識」を自分のものとして、自分にとりこむために、ま緑の人間を屠った。
さっきまでの言葉は、飲み込んだ。言ったってぼくの首がきゅうと絞まるだけだ。
ぼくが、「知識にするわけでもないのに、殺して食べるのはやめろ」と言われたって、やめる道理がないんだから。

ぼくは結局パドマのマントを軽くつかんだまま、事が済むまで、二人を見守るしかなかった。

ぼくがやる「食べるための解体」と、パドマがやる「知識のための解体」では、全くやり方がちがくて、なんだか勉強になってしまった。パドマが食べる知識をつまみ食いできた気分になって、悪くなかった。


この島にいると、「生き物」の定義が揺らぎに揺らぐ。
鉱物の化け物だって、パドマは表情一つ変えずにバラして、知識として食べてしまうんだろうか?
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