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おいしいものは、食べてみないとわからない まずいものもおなじ
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ぼくは、よく車にひかれそうになる。
彼女の太ももを塩漬けにしたものを薄くスライスし、パンにはさんで食べる。
塩辛いけど、野菜をたくさんはさんでおくとおいしい。
塩漬けというより、塩をすりこんでから、低温で長時間保存しただけ。パンツェッタというものに近い。
ほんとうは火を通すべきなのだろうけど、薄く切れば生ハムみたいになっていて、食べられなくはない。
昼はこれを厚く切って、パスタに入れて食べよう。

肉屋の中がぐちゃぐちゃになって、動けるようになってから、あわてて彼女を回収した。
地下の隠し倉庫は手付かずで、ハーシーの奴には見つからなかったらしい。
彼女が残り少ないことも考え、また、店内への人の出入りが激しくなりそうだったので、全て持ち出した。
今、やっきになって消費しているところ。じっくり彼女を食べてあげられなくて申し訳ない。
ひとくちかじるごと、彼女の顔が浮かぶ。
笑うと、水をもらったばかりの花みたいだった。

ぼくの歯に砕かれ、舌で転がされ、パンとレタス、玉ねぎとトマトとの境が危うくなり、唾液に混じって喉を落下していく。

おいしい。
ありがとう。
あなたの命に感謝します。


またぼくはパンごと彼女をかじる。


パドマがぼくを見ている。

いつも、ぼくの食事風景を、飽きることなく、じっと見る。

パドマには胸の形があった。
パドマには子を育む受け皿があった。

パドマの頼りない膨らみにふれたとき、ぼくの前でパドマは死んでしまった。
葬式もあげないうちに、パドマは全く異なるものとして息を吹き返した。

誰だ。

ぼくは、多くの人間とおなじに、相手の性別によって態度を変える。
それは悪いことだと思わない。
ただ、ぼくは、パドマにはパドマとして接してきたつもりだ。
だって、男でも、女でもないから、そうしなくちゃどうしようもない。
パドマは、パドマだし、ぼくの相棒だから、ぼくの中ではすごく特別な存在で、接し方だってたぶん特別だった。
意識なんかしなくったって、そうできた。

いやだ。
パドマをそういう目で見たくない。
パドマとはパドマとして付き合っていきたい。
見たくないけど、ぼくの右手に残るあのカーブが邪魔をしてくる。


誰でもする想像だ。
チンケでくだらなくてありがちだけど避けられない、ぼくの勝手な想像。
パドマは誰かに作られた。
パドマは女性として作られた。
ゼロから作られたんじゃなく、モデルがいて。
透き通る骨は彼女の遺骨なのだ。

--文章+絵日記です--

草原に点々としている木に毎回立ちよりながら進むぼくらは鳥みたいだと思ったが、
その歩みは鳥というよりはなめくじみたいだった。
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